”情けは人の為ならず”ってのは、自分が苦しい時に思い知らされたって話。
車の板金塗装で自営業をやっているけど、いろんなお客さんに出会わせてもらってる。
中には出会いたくなかったな、なんてお客さんがいるのも事実。
雇われていたサラリーマンの時はね、社長から指示された車を指示された作業内容通りに修理していくだけだから、直接お客さんと話し込むことはあまりない。
顔を見かけたら挨拶するぐらいで、あとは鉄と塗料と会話するぐらいなもんだ。
でも社長になるとすべての車のすべてのお客さんと関係することになる。
そんなお客さんの中には個人のお客さんだけじゃなくて、業者さんだっている。
中古車屋、車検整備屋、運送屋、タクシー会社と、様々だ。
そしてその業者さんにもいろんなのがいて、オレもずいぶん損害を被った業者がいたんだ。
最初のうちは金払いはよかったんだけど、だんだんと少しずつ遅れてくるようになった。

「10日には払うから」、「15日には持ってくるから」、「月末までには払うから」と。
すると今度は言い訳も加わってくる。
「客が修理代を持ってこないんだ」とか、「振込予定日なのにまだ振り込んでこないんだ」という具合に。
「そんなのに何回も付き合うからだよ」と言われればそれまでなんだけどね。
実際に何人かの他の社長さんにはそう言われちゃったよ。まぁ誰が聞いてもそうだろうけど‥‥。
そして、ま、案の定連絡が取れなくなる。極々自然な流れだ。
そして数年が経ち、こっちも会社やってれば、いい時もあれば悪い時だってある。
この悪い状況をどうしたもんかと悩んでいた時、オレに未払いのあるその社長さんが突然現れた。
その社長さんは車の整備の会社を1人で営んでたんだけど、オレが見かけるのも数年ぶりでどこで何をしていたかも知らなかった。あれからもう連絡もしてなかったしね。連絡しても電話に出ないし。
オレもひどく催促したことはなかった。ひどく催促したってないものはないんだろうから。
あるんならとっくに払ってるだろうし、ないから払えない。それだけだ。
そしてその社長は開口一番「ホントに申しわけない。でも、支払いに来たわけじゃないんだ」と。
オレは心の中で「じゃ何しに来たんだよ」と思ったが、社長は「金額のいい仕事を持ってきたんだ」と。
当然その社長のそんな話、その時のオレの状況がいくら悪いからといってすぐに飛びつくわけがない。
「おたくには迷惑かけたから、金額のいい仕事が取れたんで真っ先に伝えようと思って」だって。
そんなこと言われても「あーそうですか」とは言えるわけないと伝えると、それはそうだと。
だから仕事を持ってきて見てもらって、金額を言ってくれれば最初にお金を払うからということで、了承した。
その社長がオレの前に再登場してから約1年。支払いが滞ることはない。
それどころか他のどんな仕事よりも単価がいいし、継続して仕事がある。
その社長は今でもいつも「迷惑かけたから」が口癖だ。
大変な時期に来ていたオレからしたら、逆に助かった。
こうなることは想像してなかったけど、その社長に罵声を浴びせたり雑に扱ったりしたことはなかった。
”情けは人の為ならず”とはこういうことなんだなと、今しみじみ思う。
リスクは高いけどね。
もうできないな。
以上、『情けは人の為ならず、は自分が苦しい時にわかる』でした。






